投稿日 2025/10/08
シマノがDi2のXTR/XT/DeoreでSRAM純正の樹脂製UDHハンガーではなく、金属製を推奨しているとかで、突如アルミCNC製のUDHハンガーというマーケットが創出されました。弊社取扱のPINNDでも以前から製品ラインナップにありましたが、シマノの新型MTBコンポが発売されて以降、突如売れだしました。せっかくなので私物バイクのTREK Rail 9.7にもインストールしています。
シルバーの部分がPINNDのUDHハンガーですが、外側に黒く見える純正のベアリングを保護するためのキャップが完璧にフィットします。ほぼ純正の見た目です。これは安価で満足感の高いカスタマイズです。
このハンガーをインストールする時、気づいてしまったのですが、UDHハンガーの裏に隠れているベアリングが左右両方共固着していたのです。なのでシールをひっぺがしてオイルスプレーを流し込み、なんとかベアリングがスムースに回るような応急処置をしました。このTREKのホイール同軸でエンドにベアリングが入ったシステムはABPといいます。
ABPとはなんぞや、というのはこの14年前にYouTubeにアップロードされた、いにしえの動画を見て欲しいのですが、簡単に言うとブレーキング時でもリアサスペンションの動きを妨げないというものです。
このABPは裁判で争われた歴史があります。今回調べてみて初めて知ったのですが、一般的にはデイブ・ウィーグルのSplit PivotをTREKがパクったと理解されていますが、法的な特許出願順ではTREKの方が1ヶ月先んじていました。つまり、ウィーグルはDW-Linkを開発する過程でブレーキングとサスペンションを分離するアイデアを持っていたのですが、慎重に設計したため、偶然ではありますがたった1ヶ月遅れてしまったのです。
米国の特許制度は、2013年の法改正(AIA法)以前は「first to invent(先に発明した人)」が優先されたのですが、裁判ではウィーグルがTREKに先んじていたと立証できずにTREKに敗れてしまうのです。
話が逸れましたが、ABPのベアリングが固着していたということは、つまりサスペンションの動きそのものが阻害されていたはずだし、ブレーキング時ではもはや論外だった可能性があったのです。この状態で1年間乗っていたのかと背筋が起こったのですが、この予感が的中します。8月上旬にいつものセッティングで乗りに行った所、まったく乗れなかったのです。自転車が思うように走ってくれないし、久しぶりに乗ったので目が付いて行かなかっただけと思うことにしました。
ここから2ヶ月、涼しくなってきたのでそろそろトレイルのシーズンかと思って走りに行ったのですが、あまりに前回乗れなかったトラウマがあったので、もしかしたらベアリング固着が解消された影響があったのでは?と思って一旦はTREKのサスペンション・カリキュレーターに従った数値で走ることにしました。これが本当に優秀で、MYとモデル、体重を入力するだけで前後サスペンションのセッティング数値、タイヤの空気圧まで具体的に提案してくれます。
実は、このバイクを入手してからまずはカリキュレーターの提案する数値で走ったのですが、どうも固くて乗れたものじゃなかったので、推奨よりかなり低いエア圧で走っていました。迷った時は純正の値、この言葉を信じて今回はサスペンション、タイヤの空気圧まですべて提案された数値で走ったのですが、大正解でした。バイクが圧倒的に扱いやすくなり、車重が軽くなったとすら思いました。しかも、後輪のタイヤがかなり減っていたのでグリップが乏しく、そろそろ交換と思っていたら、それさえも気にならなくなったのです。「このカリキュレーター使えない」と思っていたので、ウィスコンシン方面に土下座したいです。
おそらく、入手した時からベアリングが固着気味で、どんどんと状況が悪化していたようです。リアサスペンションが動かないので、エア圧を下げる、そうなるとフォークまで固く感じるのでフォークのエア圧まで下げる、それでも全体的に固く感じるのでタイヤのエア圧まで下げるという負のスパイラルに入っていたのです。怖いことです。とりあえず、Railシリーズに乗っている方は一度ベアリングをチェックする方がいいです。
ここからがまた面白い話なのですが、ABPもSplit Pivotもほぼ同じ時期に出願されたので、同じタイミングで特許が失効します。これが2026年の9月と10月です。ホルスト・ライトナーが発明したホルスト・リンク、別名4バーリンケージは1992年に出願され、スペシャライズドが取得すると20年後の2012年に失効するまで同社がFSRという名前で独占的に使用、もしくは他社にライセンスしていました。
失効した今ではマーケットのMTBサスペンションシステムの9割がホルストリンクを採用すると言われているそうですが、今後はABPとSplit Pivotの特許失効により、ホルストリンクとABPを組み合わせたようなサスペンションシステムが登場するのではないでしょうか。2027年がとても楽しみです。
ちなみに、UDHハンガーを樹脂製からアルミ製に変えても特に変速性能の違いは感じませんでした。でもカッコいいのでおすすめです。PINND製品は200円を突破したポンド安で卸しをすると赤字になっていますので、近日値上げします。今のうちにご注文ください。
毎週金曜日発行 メルマガの登録はこちらから